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アボリジニーの食事に木の枝や葉っぱでカンガルーの上と下をおおい、蒸すために、さらにその上に砂をかけるという手法の食べ物があります。 一体このロースト・ビーフならぬロースト・カンガルーはどんな食べ物になるでしょうか。
砂っぽく、とてもわれわれには食べられるものではないのです。
歯根膜には特別な受信装置があって、このような小さい砂粒が口に入るとそのセンサーが働いて咀嚼運動をストップさせる信号を脳に発信します。 現代人はこうして、次第に固い食べ物が避けられるようになったのです。
オーストラリア原住民のセンサーの感度は相当低いと思われます。 食べ物をより好みするような賛沢は許されない環境に何万年、何十万年と暮らしてきたのでしょうから無理もありません。
歯冠の幅が小さくなって、自然に歯列の長さが変わってゆくのです。 これなら、歯をわざわざ砂混じりの食べ物は、歯をすり減らします。
これを「噛耗」といいます。 このような食べ物を続けていると噛耗は、どんどん進んでゆきます。
尖っている歯の頭(歯冠部)がなくなり、つぎに、歯の幅の一番広い部分(最大豊隆部)で隣同士の歯と接触していたのが、噛耗がさらに歯の幅の狭い頚の部分(歯頚部)に近づくと歯の前後径が短くなり、 歯列全体の長さが短くなってく軟食指向の現代人は、食べ物の固さと咀嚼回数の関係で、噛耗の機会が少ないのです。 となれば、オーストラリアン・アボリジニーと違って、自然に歯列の長さが短くなることはありえません。
歯列のサイズを人為的に調節せざるをえない「ベッグ法における抜歯理論」の根拠です。 この理論には、少しおかしなところがあります。

アボリジニーに悪い歯並びがないのは、本質的にあごのサイズそのものが縮小していないからです。 噛耗のために歯列の全周長が短くなって、小さくなりつつあるあごに収容できるよう調整されたのではないのです。
噛耗によって歯の高さが低くなり、最大豊隆部より下まで噛耗が進むといった例は、なにもオーストラリアのアボリジニーたちだけではありません。 似た現象はエスキモーにもあり、ナイジェリアの住民にもあります。
エスキモーの食性はアボリジニーに似ていますが、ナイジェリアは多少違います。 一種の砂嵐が食品に紛れてできるものです。
抜く必要もありません。 こうした観察から、矯正臨床家のB博士は、新しいヒントを得たのです。
並んでいる歯を勝手に連続的に抜くわけではありません。 乳歯列から永久歯列に移行する段階で、叢生が十分に予想されそうな場合に限って、特定の乳歯や永久歯を順序にしたがって、早め早めに決められた歯を抜く方法です。
これで、矯正治療の期間を短縮することができます。 たとえば叢生が予想される場合、位置に復帰できます。
つまり側切歯の誘導が目的です。 歯の誘導が目的です。
もともとこういう手段は、「予防矯正」と呼ばれるものです。 本当に歯並びが悪くなる前に、予防処置として実施されるものです。
乳歯についで永久歯が抜かれるので、「連続抜歯」といいます。 私の臨床経験では、この連続抜歯だけでよい歯列になったというのは、残念ながら一例あるだけです。

やはりなんらかの矯正治療の支援がなくては、完全な歯列にはできないようです。 つまり本来の意味での、予防矯正法にはならないのです。
アメリカの教科書などでは、この連続抜歯はAの分類1級の噛合異常に限定して使うようなことが書かれていますが、 この判断を下す時期は乳歯と永久歯が共存する混合歯列期の初期であるため、安全をはかってそうしているだけです。 歯科矯正治療で歯を動かす話は随所にでてきましたが、あの硬い骨に植わっている歯を、どうやって動かすのでしょうか。
なぜ、歯が動くのでしょうか。 誰でも不思議に思うに違いありません。
できるだけ簡単に、そのメカニズムを説明しておきます。 歯根の部分は、あごの歯槽骨に刺さったように生えています。
つまり歯の半分は歯槽骨のなかにあり、歯根膜の線維によって、歯槽骨とセメント質とが連結されているのです。 上あごの歯が自然に落っこち、逆立ちをしても歯があごから抜け落ちないのはこの歯根膜の線維のお陰で立っています。
歯を支えているのは、この歯根膜のほかに歯肉、歯根をカバーしているセメント質それに歯槽骨で、これらを総称して歯の「支持組織」といいます。 骨に植わっている歯に、矢印の方向に適切な矯正力を加えたとします。

歯はその方向に多少傾きながら押されます。 回転軸は歯根の真ん中より少し下にあります。
歯根膜は、押されている圧迫側と牽引側に分かれます。 まず、圧迫側の力を受けた歯根膜部分は狭くなります。
矯正力は歯根膜など歯周組織に対しては大なり小なり物理的な刺激として作用します。 また同時に炎症を引きおこします。
つまり圧迫を受けた歯根膜組織はその圧迫する矯正力の程度によっては、血液の循環障害をおこし、炎症反応も進んでいきます。 その結果、プロスタグランディンという物質をつくり出して破骨細胞は、歯根に近い歯槽骨を徐々に溶かし吸収してしまうのです。
つまり、圧迫側で歯を支える骨を吸収してゆきます。 もっとも、この変化は一方的に骨の方にばかり起こるのではなく、反作用としてセメント質にも小規模ながら同様な組織反応が起こります。
「破歯細胞」(歯のセメント質をとかす細胞)が歯根表面のかなりの部分をおおっている二次セメント質を溶かそうとするのです。 さて、歯槽骨が破骨細胞に食べられてしまうということによって、歯は押された方向に移動することになります。
一方、反対側の牽引側では、歯根膜組織が引き伸ばされ、未熟な骨の細胞が作られ始めます。 進行方向と逆の後方の牽引側では、骨が新生する。

したがって、歯槽骨は当面吸収されず、歯と直接ブツかり合うことになり、歯も移動しない。 歯槽骨は内側から吸収し始め、いずれは歯も移動するが。
矯正力は強ければ良いというものではない。 これはやがて新しい歯槽骨に変身します。
こうした変化は患者さんの年齢などで多少時間的にズレがありますが、この変化をスローモーション映画のひとこまひとこまの変化を普通のスピードで再現させれば、歯槽骨のなかで歯がいかにもスムーズに移動しているかのように見える。 ところで、二次セメント質が受ける影響はその後どうなってしまうのでしょうか。
矯正力が適当な強さで、しかも治療が月に一回程度であれば、加えられた矯正力の種類・程度にもよりますが、力は二、三週間足らずで弱ってしまい、 残りの一、二週間では殆ど矯正力としての効果を持たないのが普通ですから、破歯細胞もその活動を止めてしまいます。 つまり、歯根もごく部分的とはいえ吸収し始めますが、この一、二週間の問にセメント質の方に回復する時間が与えられへ修復するのです。
いま述べたことは、適切な矯正力が加えられた時の話です。 もっと「強大な力」を加えれば、もっと早く歯は動くでしょうか。
答は「ノー」です。 実際に私が経験した失敗例をお話します。
昭和二十七・八年頃のことです。 私が校医をしていた近所の小学校の校長先生から、ら診てくれないか」左右の上あごの第一小臼歯を抜歯して、さて治療開始です。
「成人矯正」のはしりといったところでしょうか。 治療開始して二、三か月もすると、上あごの前歯はどんどん動き始めたのです。
上あごのアーチ・ワイヤーの犬歯部分と下の大臼歯部との間に斜めの輪ゴムを使って、その輪ゴムの力で上あごの前歯を後ろに、下顎全体を前方に移動するのです。

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